ヘリコバクターピロリ菌とは?
ヘリコバクターピロリ(H. pylori)菌は、胃の粘膜に生息する螺旋状の細菌です。
この菌は、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫さらには胃がんの原因となることがあります。また、胃以外の疾患としては、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、鉄欠乏性貧血の原因となることも知られています。
H. pyloriは、ウレアーゼという酵素を作り出すことにより、周囲の酸を中和し、強酸の胃の中でも生存できる非常にユニークな微生物です。
日本では、H. pyloriの感染率は年代によって異なります。
たとえば、60歳以上の高齢者では感染率が約70%と高く、一方で若年層では感染率が低くなっています。全体的には、日本の成人の約40%がH. pyloriに感染しているとされています。
一度感染すると、通常は生涯にわたって持続し、この持続的な感染が慢性的な胃炎を引き起こし、それが原因で様々な疾患が発生します。
感染経路
H. pyloriの感染は、主に幼少期に起こることが多いとされています。感染経路としては、家庭内での接触、汚染された食べ物や水の摂取が挙げられます。特に衛生環境が整っていない地域では感染率が高くなる傾向があります。H. pyloriは、口から口への接触や食器の共有など、日常生活での親密な接触を通じて広がることが多いです。そのため、慢性胃炎・胃がん・十二指腸がん・胃潰瘍・十二指腸潰瘍などを発症したご家族がいる場合には、ご自身もピロリ菌に感染している可能性があります。
症状
H. pylori感染は無症状であることが多いですが、以下のような症状が現れることもあります。
これらの症状が続く場合や、胃潰瘍や胃がんのリスクが高いと考えられる場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。
診断
H. pylori感染の診断には、いくつかの方法があります。
尿素呼気試験
特定の薬剤を飲み、その後の呼気を測定してH. pyloriの存在を確認します。簡便で非侵襲的な方法です。
便中抗原検査
便を検査してH. pylori抗原を検出します。
血液検査
H. pyloriに対する抗体を測定しますが、感染の過去と現在を区別することが難しいです。
内視鏡検査
胃内視鏡を使用し、胃粘膜の組織を採取して検査します。直接的な観察と病変の確認が可能です。
治療
H. pylori感染の治療には、通常、抗生物質と胃酸を抑える薬を組み合わせた治療法(除菌療法)が用いられます。治療期間は一般的に1〜2週間で、多くの場合、感染は完全に除去されます。初回除菌治療の成功率は約90%です。正確な除菌判定のために、薬の服用から1か月以上の経過を目安に判定検査を行います。除菌に失敗した場合、抗生物質を変更して2回目の除菌治療が可能です。初回と2回目を合わせた除菌の成功率は約99%です。しかし、除菌後も胃がんのリスクもあるため、治療後のフォローアップが重要です。治療成功率は高いですが、抗生物質耐性菌の存在も懸念されています。
ピロリ菌と胃がん
ピロリ菌感染は胃がんの発症に深く関連しています。除菌治療が胃がん予防に効果的であることが、世界中の研究によって確認されています。除菌治療を行うことで、胃の炎症は改善傾向を見せるものの、萎縮や腸上皮化生といった変化は長期間残る可能性があります。そのため、胃がんの発症リスクは依然として存在し、年に1回の定期的な胃カメラ検査が推奨されます。胃がんを早期に発見できれば、内視鏡による治療で完治させることが可能です。
おわりに
H. pylori感染は適切な治療が必要な疾患です。感染を放置すると、胃の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、早期発見と治療が重要です。当クリニックでは、熟練の内視鏡医が行う苦痛の少ない胃カメラ検査を提供しております。消化器病専門の医師が丁寧に対応し、適切な治療を行います。上記の症状に心当たりがある場合や、不安がある場合は、お気軽にご相談ください。