肛門とは?
肛門は、消化管の最終部に位置し、体外に便を排出する重要な器官です。便をスムーズに排出するために、肛門周囲には内肛門括約筋と外肛門括約筋の2つの筋肉があります。これらの筋肉は、普段は便や臭いを外に出さないように収縮して肛門を閉じる働きをしていますが、排便の際に排便の刺激と協調して筋肉が弛緩して、便を促す役割を果たしています。
肛門の構造
肛門は、直腸から続く管状の構造で、外部に開いています。内肛門括約筋は自律神経により無意識に制御されている一方で、外肛門括約筋は随意筋で、自分の意志でコントロールが可能です。肛門を締める部位には、静脈叢が張り巡らされており、それがクッション機能としてやさしく肛門を締めるために役立っています。排便習慣が悪いと、静脈叢が腫れることで痔核の原因になることがあります。痔核による症状は肛門からのでっぱりや出血などがあります。痔核からの出血と思っていたところ、直腸よりも口側の結腸からの出血であることも少なくありません。そのため、下血などの症状がある場合は、大腸カメラ検査を受けることをおすすめしています。
痔の種類
痔には、主に3つの種類があります。
- 痔核(いぼ痔):肛門の内側や外側に腫れやこぶができる状態です。
- 裂肛(切れ痔):肛門の皮膚が裂けて出血や痛みを伴います。
- 痔瘻:肛門周囲に炎症が起こり、膿が溜まり、瘻管(ろうかん)が形成される状態です。
痔核とは?
痔核は、肛門をとじるための静脈叢が長年の排便習慣によりうっ血して、こぶ状に腫れた状態です。肛門の皮膚と直腸の間には肛門陰窩(こうもんいんか)という小さい凹みが並んでおり、そこが歯状線とよばれる境界になります。歯状線よりも内側にできる痔核を「内痔核」、外側にできる痔核を「外痔核」と呼びます。
内痔核
内痔核は、肛門の内側、直腸粘膜の下に存在する血管が拡張して形成されるものです。一般的には痛みを伴わず、出血が主な症状となります。しかし、進行すると肛門の外に突出して脱出(脱肛)することがあります。内痔核の進行度は、Goligher分類と呼ばれる臨床的な評価基準に基づいて4段階に分類されます。
- 第1度:痔核が肛門内に留まっており、脱出は認めないが、出血が見られることがあります。
- 第2度:排便時に痔核が肛門の外に脱出しますが、自然に戻ることができます。
- 第3度:脱出した痔核は自然には戻らず、手で押し戻す必要があります。
- 第4度:常に脱出しており、手で押し戻しても戻りません。
Goligher分類に基づく痔核の評価は、治療方針を決定する際に重要であり、特に第3度・第4度の内痔核では手術を検討することが多くなります。
外痔核
外痔核は、肛門の外側、皮膚の下に発生する痔核です。一般的に痛みを伴うことが多く、特に血栓性外痔核と呼ばれる状態では、痔核内に血栓が形成され、急激な痛みと腫れが発生します。血栓性外痔核は急性の症状であり、特に排便時に痛みが増すことがあります。通常、数日から1週間で自然に改善する(血栓が吸収される)ことが多いですが、痛みが強い場合は外科的に血栓を除去する治療が行われることもあります。血栓の除去に関しては、局所麻酔で行いますので、日帰りで行うことができますが、切開するので連日の通院が必要になります。
また、嵌頓痔核(かんとんじかく)は、脱出した内痔核や外痔核が肛門括約筋によって圧迫され、血流が悪くなり、著しい痛みや腫れを引き起こす状態です。この状態は緊急処置を要することが多く、早期に治療を行うことで症状の悪化を防ぐことができます。
痔核の原因
痔核の主な原因は、間違った排便習慣と便の性状が不適切(緩すぎたり硬すぎたりすること)である場合がほとんどです。排便は便意を感じたときに短時間で行うことが理想的であり、便意を感じていないのに長時間トイレに座っていきんだり、便秘や下痢などで排便時に強くいきむことは肛門周囲の血管に圧力がかかり、血液の流れが悪くなり静脈叢のうっ血につながるため、可能な限り避ける必要があります。その他の原因として、重い物をもつ習慣、仕事などの関係で座っている時間が長い、立ち仕事で一日中たちっぱなしのことが多い、毎日お酒飲む、辛い物を好んで食べるなどが原因となることもあります。また、妊娠を契機に痔核が悪化するケースがあります。
痔核の症状
初期の痔核は痛みがないこともありますが、進行すると以下の症状が現れます。
- 排便時の出血
- 肛門のかゆみや違和感
- 肛門の腫れや痛み
- 排便後にこぶが外に出る(特に内痔核)
痔核の治療法
治療法は、保存的治療と手術治療に分けられます。保存的治療とは、生活習慣の改善(便秘の予防、排便時のいきみを減らす)や、座薬や軟膏の使用で治療することを指します。手術治療とは、ゴム輪結紮術や硬化療法、さらには痔核を切除する外科手術(痔核切除術)を指します。
どの治療を選択するかは、症状の程度に応じて異なりますが、どの治療を選択しても、再発しないためにも生活習慣の改善、排便習慣の改善が最重要事項になります。当院では再発しないための生活習慣、排便習慣の改善に特に力をいれています。
裂肛とは?
裂肛(切れ痔)は、肛門の皮膚が裂けて出血や痛みを引き起こす状態です。特に排便時に強い痛みが伴い、慢性化すると治療が難しくなることがあります。
裂肛の原因
裂肛の主な原因は、硬い便や便秘による排便時の強いいきみです。肛門の皮膚が引き裂かれ、その部分が炎症を起こしやすくなります。また、下痢が続くことで肛門周辺の皮膚が弱くなり、裂肛が発生することもあります。便の性状は硬すぎても柔らかすぎても原因になります。裂肛の症状は強い痛みを伴いますが、症状は比較的すぐに改善します。しかし、裂肛を何度も繰り返すことで、傷口が潰瘍化すると、排便後の痛みが長時間続くようになります。また、裂肛を繰り返すことで傷口が瘢痕化することで、肛門の伸展性がなくなり、排便時に肛門が適切に弛緩しなくなります。この状態を慢性裂肛とよび、肛門が狭窄することで、排便時にさらに肛門がきれやすい状態になります。肛門が切れると疼痛を伴うため、排便をがまんしてしまい、便秘と裂肛を繰り返す悪循環になってしまいます。まずはこの悪循環が起きないように、適切な排便習慣を身につけ、便の性状を適切な状態に保つように治療をしていくことが重要になります。慢性裂肛になり、肛門狭窄がひどい場合は、手術が必要になります。
裂肛の症状
裂肛の主な症状には、以下のものがあります。
- 排便時の鋭い痛み
- 排便後の出血(鮮やかな赤色の血)
- 肛門のかゆみや炎症
裂肛の治療法
軽度の場合は、便を柔らかく保つための食生活の改善や、排便時のいきみを減らすことが治療の基本です。また、座薬や軟膏が用いられ、痛みを和らげ、治癒を促します。慢性的な裂肛や重度の場合は、手術による治療が必要となることがあります。
痔瘻とは?
肛門と直腸の境界には「歯状線」と呼ばれる部分があり、ここに存在する小さなくぼみを「肛門陰窩」といいます。この肛門陰窩に便が入り込むと、細菌が感染しやすくなり、炎症を引き起こすことがあります。この結果、肛門周囲膿瘍という状態が発生します。痔瘻(じろう)は、肛門周囲に膿がたまって感染を引き起こし、膿が排出される小さなトンネル(瘻管)ができる状態です。このトンネルは、肛門と皮膚の間に形成され、再発を繰り返すことが多いです。
痔瘻の原因
通常、肛門陰窩には便が入り込むことはありませんが、下痢などで便の勢いが強い場合や、免疫力が低下していると便が入りやすくなり、そこから細菌が感染して炎症を起こすことがあります。肛門周囲膿瘍が発生すると、膿が肛門周りの組織内に溜まり、それが長期間放置されることで膿が外に出るための経路(瘻管:トンネル状の通り道)が形成されます。この過程で、肛門周囲に腫れや痛み、発熱といった症状が現れます。膿が排出されると痛みや発熱は一時的に治まりますが、このトンネル(瘻管)は自然に消えることはなく、根本的な治療には手術が必要です。
痔ろうを放置しておくと、炎症が再発し、トンネルがさらに複雑化する恐れがあります。さらに、痔ろうが悪化すると、稀ですが「肛門がん」に進展するケースも報告されています。また、難治性の痔ろうはクローン病との関連が指摘されており、より慎重な対応が必要です。
痔瘻の症状
痔瘻の主な症状には、以下のものがあります。
- 肛門周囲の腫れや痛み
- 肛門からの膿の排出
- 熱や疲労感(感染が進行した場合)
痔瘻の分類
痔瘻は、瘻管の位置や広がり方に応じて分類されます。
- 単純痔瘻:瘻管が1本だけの場合
- 複雑痔瘻:複数の瘻管や枝がある場合
痔瘻の治療法
痔瘻は自然に治ることはなく、外科的な治療が必要です。瘻管を切開して膿を排出し、瘻管自体を閉じるための手術が行われます。感染の再発を防ぐためにも、早期の治療が重要です。
痔ろうや肛門周囲膿瘍の症状がみられた場合は、放置せず早めに専門医の診察を受けることが大切です。
おわりに
いぼ痔・切れ痔・痔ろうは適切な治療と生活習慣の見直しによって症状の改善が期待できる病気です。当クリニックでは、熟練の内視鏡医が行う苦痛の少ない大腸カメラ検査を提供しております。肛門病専門の医師が丁寧に対応し、適切な治療を行います。いぼ痔・切れ痔・痔ろうでお困りの場合は、お気軽にご相談ください。